まるで世界中の宝石を集めてきたのかと錯覚するほどに、会場は無数の宝石の輝きに満たされていた…-。
隣を歩いていたジークさんが、ふと歩みを止める。
ジーク「こちらが、プリンセスに一番見ていただきたかったものです」
その宝石は、どこか神秘的な雰囲気をまとっている。
〇〇「綺麗な宝石ですね」
ジーク「ええ、特別な宝石ですから」
〇〇「……特別?」
ジーク「これは『乙女への誓い』と呼ばれる宝石で、メジスティアの王族が代々受け継いできた宝石です。 王となった者が、永遠の愛を誓う相手に捧げる宝石……愛の守護石とも言われています」
(愛の守護石……)
甘い響きが、耳に残る…-。
ジーク「とても大切なものなので、これは似た宝石を使ったレプリカなのですが……。 本物は、いずれ……」
言葉を切ったジークさんが、意味ありげな眼差しを私に向ける。
(え……)
見つめ合って数秒、自分の心臓の音ばかりが耳に響く。
ジーク「プリンセス、私は…-」
ジークさんが口を開いた、その時…-。
??「こちらにいらしてたんですね!」
不意に聞こえたかわいらしい声が、彼の言葉を遮った。
軽やかな足音が近づいて来たかと思うと、可憐な雰囲気の女性がジークさんの腕に絡みついた。
ジーク「フレイヤ……」
フレイヤ「ずっと探しておりました」
フレイヤと呼ばれた女性は、ジークさんを上目遣いで見つめている。
フレイヤ「ひどいわ、一緒に来たかったのに」
(ジークさんの知り合い?)
艶やかな長い髪を掻き上げていたずらっぽく微笑むさまは、同性の私から見ても魅力的に思えた。
(綺麗な人……私より少し年下かな?)
ジーク「今はトロイメアの姫君を案内しています。話なら後から聞きますから」
ジークさんが咎めるようにそう言うと、フレイヤさんは拗ねたように唇を尖らせた。
(すごく仲が良さそう……)
その瞬間、胸にチクリと鈍い痛みが走る。
(……あれ? 今、私……)
痛みを確かめるように、私は胸に手をあてた…-。
フレイヤ「わかりました。でも、約束よ? 後でたくさんお話ししましょうね」
フレイヤさんは名残惜しそうにジークさんの腕を離すと、私に軽く会釈をして、去っていった。
ジーク「すみません。お待たせしてしまいました」
申し訳なさそうに頭を下げた彼に、私は……
〇〇「いえ……大丈夫です」
ジーク「まさか、彼女がここに来ているとは……言うことを聞いてくれてよかったです」
困ったように眉尻を下げながらも、その声はとても優しい。
(フレイヤさんって、もしかして……)
なぜか胸が鈍く締めつけられて、言葉に詰まる。
ジーク「……プリンセス、どうされましたか?」
胸のわだかまりを悟られないように、私は無理やり笑顔を作った。
〇〇「いえ……何も」
するとジークさんは首を傾げ、小さく微笑む。
ジーク「プリンセスの微笑みはいつでも素敵ですが、今はいつもと少し違うかと……」
〇〇「……そうですか?」
(ジークさん、こんなにちょっとしたことでも気づいてくれてるんだな)
その優しさが、さらに私の胸をぎゅっと締めつける。
〇〇「心配かけてすみません。でも、本当に何もないので……」
いつものようにできているかわからないけれど、今できる精一杯の笑顔を私は浮かべた…-。